novelist-kentoの小説活動

仕事のかたわら、主に社会派SFの長編や日常ものの短編小説を書いているアラフォーの男です(^_^) このブログでは、自身の書いた小説だけでなく印象的だった作品のご紹介と、読者様、または実際に執筆をされておられる方が楽しめる・タメになる記事を発信できたらと思っています_(._.)_

受賞する作品とは?(SFの場合)

 ご無沙汰しておりました。

 昨年11月9日に処女作をリメイクしているとの投稿をして以来、その執筆の方に気を取られしばらく更新できずにいました。ひとまず最初からオチまで書き上げ一息ついたのと、その間に「面白い小説ってなんだろう?」と漠然と色々と考えていたこともあって、更新しようと決意。

 今回は過去に受賞した作品(SFの場合)について、受賞するに当たってどういった点が評価されたのか、浅いながらも自分なりに考えてみました。作品は第2回(2014年)ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作でもある柴田勝家氏の『ニルヤの島』について考察してみました。これ以降、ネタバレしない程度にその内容に触れていきたいと思います。

 

 『ニルヤの島』の大まかなストーリーとしては、舞台は二〇六九年、海上道路網によって島々全体が管理されたミクロネシア。『生体受像』という個人の意識を時系列的な情報として残し、その情報を死後も引き出すことが出来る技術が生まれたことで、死後の世界という概念が失われた世界。その南洋の島々へ、文化人類学者である日本国籍の男性ノヴァクと模倣子行動学者であるスウェーデン人の女性ヨハンナの二人が立ち入り、世界最後の宗教集団と呼ばれる――モデカイトの教徒らが信じる、人が死んだ後に辿り着く島――ニルヤの島――の核心に迫る出来事に遭遇する物語。

 

 テーマとしては、『死後の世界』という「私たち人間はどう生きるべきか、何を目指して生きるべきか」という永遠の問い掛けにも繋がる深いもので、物語が著者独自の『生体受像』や『主観時刻』といった小道具と、人間どうしで未来に向けて共有されていく習慣や物語といった社会的・文化的な情報であるミーム(模倣子)という概念をベースに展開されるのがユニークだと思いました。

 視点としては、ノヴァクとヨハンナ、人間の行動の進化の模擬実験を何十年も『アコーマン』という盤上ゲームでコンピュータと対戦を続けることで行っている老人のハイドリ、ミクロネシアという国の平和を維持するためにコバルトを掘る採掘船の修理をしている潜水技師のタヤと彼を慕う黒髪の少女である二イルの4つで描かれています。二人の主人公――文化人類学者であるノヴァクと模倣子行動学者であるヨハンナは、それぞれノヴァクは自身の価値観に対する葛藤を、ヨハンナは過去の出来事に対するトラウマを抱えていますが、それらと真摯に向き合う姿に読者自身も心を動かされます。

 また、ミクロネシアの街並みや建物の中といった風景描写はそれが鮮明に想い浮かべられ、心情描写は少しクセのある登場人物たちの個性が浮き彫りになるように表現されていました。4つの視点毎に、一人称や三人称、言葉遣いを使い分けている所も芸が細かいなと思いました。  

 ストーリー展開としては、ラストは多少強引な所もありましたが、最初は時間も場所だけでなくその感じ方・考え方も異なる登場人物たちの点だった物語が、次第に結びつき、『生と死』についての哲学的思考を読者にもたらす力強い線になっていく様には思わず唸りました。

 

 以上のことを踏まえて、受賞するような非常に優れた作品に必要な要素として、以下の4つが挙げられると思いました。

1.人類や人間に関わる壮大だったり奥の深いテーマをユニークな手法・視点で描いていること(舞台設定)

2.登場する主人公が何かしら夢を持っていたりトラウマを抱えていたりして、それに近づいたり、それを乗り越えようとする魅力的な人物であること(キャラ設定)

3.文章自体が美しく簡潔で読み易いこと(表現力)

4.物語の進み方に緩急があり、壮大な背景が徐々に明らかになる、謎が少しづつ解き明かされるすっきり感がある、ラストのどんでん返しがある、など展開に意外性があること(ストーリー展開)

 

 実は、この舞台設定、キャラ設定、表現力、ストーリー展開の4点は、僕が独自に思い付いたわけではなく、ネットで様々な方が解説している「面白い小説を書くためのノウハウ」的なお話しも参考にさせてもらっています(もちろんこの4点以外にも様々な要素があるかとは思います)。また、僕自身、小説だけでなくテレビドラマや映画好きの父と「面白い小説って何だろう?」と話をすることがよくあり、その話からも着想を得ています。今回の記事を書くに当たって重要だと感じたこの4つの視点を今後の自身の作品にも反映できたらと思っています。

 

 この「ニルヤの島」は、夭逝のSF作家である伊藤計劃氏の「ハーモニー」の、近未来的で透明感のある世界観が印象的で、その雰囲気と本作が似ている(著者ご本人も影響を受けたとのこと)というレビューを目にして、購入を決めました。

少々難解なストーリー展開ではありますが、文章自体は読み易いく、SF好きな方にはもちろん、そうでない方も宗教や死生観について考えたことのある方は、一読の価値があると思います。ちなみに私はAmazonの文庫にて購入しました↓

https://www.amazon.co.jp/ニルヤの島-ハヤカワ文庫JA-柴田勝家/dp/4150312427

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 以上、少し長くなりましたが最後まで読んで頂きありがとうございました。