novelist-kentoの小説活動

仕事のかたわら、主に社会派SFの長編や日常ものの短編小説を書いているアラフォーの男です(^_^) このブログでは、自身の書いた小説だけでなく印象的だった作品のご紹介と、読者様、または実際に執筆をされておられる方が楽しめる・タメになる記事を発信できたらと思っています_(._.)_

新たに発掘 ハードSFの傑作 

 前回に青春SFとして「時をかける少女」の文庫本を紹介しました。あちらの作品は、どちらかというと、タイムリープといった古典的で馴染みのある現象(漫画『ドラえもん』のタイムマシンがまさにそうです)を上手く使って、中学三年生という幼い女の子が、不思議な体験に遭遇した驚きや未来人に抱いた淡い恋心、といったことに主眼を置いた青春小説でした。科学的な知識がなくても読める、ある意味万人受けする作品だと思います。 
 今回は、科学的用語・造語が登場する近未来の社会派SF作品『ネクサス』(上・下巻)を紹介したいと思います(余談ですが、現在私が執筆している作品もハードSF的要素があるので参考になりました(^^;)。日本語翻訳版として2017年に発刊された割と新しい小説です。サイエンス――特に人工知能とかに興味のある方には打ってつけの作品だと思います。逆にそういった内容に興味の薄い方にはあまりオススメはしませんが、この作品は物語として面白いので、科学的な説明は何となく理解してもらえれば、充分に楽しめると思います。
 著者であるラメズ・ナム氏はマイクロソフトオフィスに13年間勤務したコンピュータ科学技術者というだけあって、プログラミングの専門知識に裏付けされた概念はとても説得力があります(とは言いつつ私も半分くらいしか理解できませんでした…w)。

※ここからはネタバレを含みますのでご注意ください(しかも少し長いです(^^;)↓

 この作品の大きな流れとしては、
 遺伝子工学やクローン技術、ナノテク、人工知能といった科学技術の急速な進歩が世界に脅威を与えているという考えの下にそういった脅威に対抗する動きを取っているアメリカ合衆国国土安全保障省新型リスク対策局(ERD)の特別捜査官のサマンサ・カタラネス(以下、サム))は、近年急速に普及し始めた薬物――ネクサスを回収すべく、神経科学者のケイデン・レイン(以下、ケイド)とその神経科学者仲間たちがネクサスを服用して楽しんでいるパーティ会場に潜入した。
 ここで出てくるネクサスについて私になりの理解を説明すると、
 ネクサスとは服用型のナノマシンのことで、経口摂取すると脳内に広がり、億単位のナノマシンネットワーク(一個一個の極小なナノマシンが網の目のように繋がってできる信号網のこと)を形成する。ナノマシンは生身の脳の140億個の神経細胞と電気的に相互作用して、神経細胞と情報の交換を行うことができる。これによって、思考や感覚の速度を上げるだけでなく、思考の遠隔操作やナノマシンを介しての赤の他人同士との意識の共有といった、まさにSF映画に出てきそうな体験ができる非合法の薬物のこと。
 です。
 ケイドとその仲間はサムに、「ネクサスの合成と使用が違法行為に当たる」として拉致される。ケイドらはERD執行部部長代理のウォレン・ベッカーから、「三年間の保護観察と麻薬検査の義務を課し、監視する。ネクサスを含めたコンピュータ、生物、神経、ナノテク関連技術の使用を禁止する」と告げられる。が、ネクサスの研究を全て引き渡し、ERDで国家に貢献するミッションに手を貸してくれれば、収容を見送るという条件を提示される。その貢献の中身とは、ネクサスといった強制支配技術に主眼を置いた中国の著名な神経科学者ジュウ・スイインが、合成化学者・ナノテク技術者であるタイのテッド・プラト・ナンのような人物を通じて闇市場にどのような知識を流したのか、スパイしてほしいとのことだった。ケイドはその条件を飲み、サムと協力してミッションに挑むことになる。
といった感じです。

 ジュウの足取りを追い接触する中で、タイのマフィアや麻薬流通組織の連中に目をつけられたケイドとサムが命を狙われる、といったようにある時点から事態は深刻化します。その際の戦闘シーンでは、映画『ミッション・インポッシブル』のような近未来の武器を使った人対人のアクションが多く出てきます。テンポがよく迫力があり、闘いが激しくなると若干グロイ描写もありますが(-_-;)、耐性がない私でも何とか大丈夫でした(^^)b
 また、肉体と連動する様々なソフトの中でも、平常心を保つためにセロトニンを増やし、心拍と呼吸を一定に規制し、恐怖信号が扁桃体を通じて広がるのを抑制している『明鏡止水パッケージ』は使ってみたいなと思いました。
 タイの仏僧であり神経科学部長のソムデット・プラ・アナンダがケイドとの会話の中で「地球上のすべての脳と精神が接続された世界を実現することが神経科学の目指す方向」とし、ネクサスと仏教の目標が似ているとしている点も、ユニークに感じられました。  
 ジュウとケイドの心の中のやりとりの駆け引きはスリリングで、人間性の限界を受け入れるか、ネクサスといった科学技術の可能性の力を信じるか、ケイドの葛藤がシリアスに描かれています。

 
 物語はダンスパーティで、主人公の神経科学者であるケイドが、仲間のランガンの作ったソフトウェア<ドン・ファン>がネクサスのインターフェースを利用して発話と聞き取りを制御できるかどうかをテストしているところから始まる。
 ケイドが<ドン・ファン>の指令通りに二十代の女性を口説いたり、VRポルノから得た動運動制御ソフト<ピーター・ノース>によって、その女性と抱き合い求め合うシーンがある。この時に、刺激をあらわすパラメータ画面が「インターフェース警告、最大刺激の秒間発生がパラメータを超過」と、性的刺激をプログラム的に表現しているのが面白い(笑)
 この導入部分だけで、私はこの作品がSFとしても物語としても面白いと確信して、どんどん引き込まれていきました。


 なおこの『ネクサス』(上・下)でこの物語は終わりではなく続編があるらしいです。アメリカでは既に完結しており、できるだけ早い日本語翻訳版を期待します。また、パラマウントが映画化権を取得し制作が進んでいる情報もあり、どちらも楽しみです(^-^)

『ネクサス』(上)

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『ネクサス』(下)↓

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